品質を保証するウールマーク
IWS(国際羊毛事務局)のウールマークの広告はJWTが制作した広告のショウケースの代表作品であった。TVのみならず、新聞、雑誌でキャンペーンは話題を集めた。素晴らしいコピーとアートディレクションは今でも新鮮な広告としてよみがえる。
ピュアバージンウールの品質を保証するマークとして商品についているウールマークは商品に付加価値を与えたものだ。ウールマークの着いたスーツを初めて着た時の誇らしげな気持ちは忘れられない。
「触ってごらん、ウールだよ。」
ブランドの個性は暖かく、優しい。「触ってごらん、ウールだよ。」のコピーに象徴されている。美大の学生がウールマークの広告を見てJWTに憧れ、新規取引先が仕事を依頼するという後光効果もあった。
1970年代までウールは品質面での優位性を差別化のアピールにしてきた。一方、化学繊維は品質では劣ると考えられてきた。
若者の価値観における変化
しかし、化繊のアパレルを中心にその品質はもとより、ファッション性が向上し、特に20代、30代では本物対偽物という考えは希薄になり、彩の豊かさ、高いファッション性を重視するようになった。化繊商品の彩り、デザインといったファッション性の価値が若い世代で重視されるようになってきた。
ともすれば高品質だが、おとなしく保守的に見られたウールを、本来の個性を堅持して若い世代にもアピールする働きかけをする必要が出てきたのだ。
定性調査の結果は、若い世代の判断基準が彩りやファッション性にあることを確認できた。
若い世代に向けたキャンペーンが初めて着手された。クリエイティブブリーフはそれまでのアプローチから若い消費者に焦点を当てたものだった。
それまで成功を収めてきた担当のクリエイティブディレクターの中島祥文さんと彼のクリエイティブチームは、今までのアプローチにこだわることなく消費者調査の結果に耳を傾け、ウールマークにファッショナブルな若々しさを付加するためのクリエイティブブリーフを真摯に受け止めてくれた。
「はい、品質ですよ。ウールマーク」
中島さんが提案したクリエイティブアイデアは全く予期しない、鮮やかで若々しくショッキングなものだった。
クリエイティブチームの柔軟な対応と想像力の深さに感激した。彼らはまさしく“Top-notch Creator”(最高のトップクリエイター)。ブリーフを準備するまでの苦労が報われた満足感に浸ったものだ。
「爆風スランプ」が登場した広告は全く新しい、カラフルで、若者へのアピール満載の刺激的な広告だった。新しい広告は歓迎され、若者の心にもウールマークが品質保証のマークとして浸透していった。
ところで、中島さんの作品集は2009年4月に「考えるデザイン 中島祥文・24のデザイン発想」として上梓された。Top-notch Creator 中島さんの提案は必見の書だ。