“What is a Brand?” の主張
第1章から第5章までを通した総集編は、45分と長いプレゼンテーションを通して、ブランドを成功させることが企業の成功につながることを繰り返し、述べている。
私が “What is a Brand?” を初めて見たのはこのプレゼンテーションが発表された1971年の3年後、オランダのアムステルダム郊外のノードウイークで行われたJWTインターナショナルセミナーでだった。
当時東京ではUSPにもとづく米国の広告アプローチが主流だった。
ブルモアさんは “What is a Brand?” で広告は製品の機能的価値を訴えるハードセルか、非機能的イメージを訴えるソフトセルのイメージ広告といった二者択一の短絡な考えに反対した。ブランドの価値は機能と非機能のブレンドされたもので知覚、理性、感性から広告されると主張する。
正直言って、ブルモアさんの言われることを理解するまでには時間がかかった。
ここで例に挙げている広告例は製品の機能的価値と情緒的、非機能価値をブレンドした広告として制作されたということだと思う。出来上がったクリエイティブを知覚(見たり、聞いたり、触れたりする)、理性(機能的特性、差別化の理由)、感性(情緒的な特長)という観点から分析していると考えるべきだと思う。つまりこの観点からうまくバランスされていると解説している。
ブランドの個性
ブルモアさんの取り上げている作品集でも機能的価値と非機能的、情緒的価値のバランスされた広告により、ブランドの個性が作り出されている。
成功しているブランド広告は機能的価値に集中したり、非機能的ブランドイメージに集中したりしていない。
また、パーシル(洗剤)やスマーティー(当時のラウントリー マッキントッシュ社の子供用糖衣チョコ、マーブルチョコのような製品)のようにクリエイティブの表現は変わってもブランドの個性(この場合、理性と情緒からのアピールで)は10年以上変わっていない。継続されることでブランドの価値をより高めることに成功している。
ブランド戦略の原理・原則
キングさんは “What is a Brand?” の結びとして、要点を次のように述べている。
- 小売業が益々台頭して力を持つ。(当時)小売業者の力を最も利用できたメーカーが成功する。
- メーカーは今まで以上にマージンを確保することが大切でシェア、成長率は2の次。
- マージンが値引きに割かれることなく維持が出来ればマーケティング/広告予算は確保されて積極策が取れ、製品改良やより良い新製品を作る予算も取れる。メーカーは最終消費者との直接のコミュニケーション、ダイアログを継続して行うことが大切で消費者の話をきくことを怠ってはいけない。
- ブランドをより価値のあるものに。機能的価値を補完する非機能的価値を加えることで消費者により価値あるブランドにする。ブランドが消費者により価値あるものになれば小売業もブランドをより受け入れる。
- 広告の役割はセールスを増加させるのみならず、ブランドの価値を増強し、個性を強化し、マージンを維持出来るようにすることにある。広告はブランドの個性を維持強化する第一手段だ。
- 製品の機能的価値を向上させ、新製品を開発し消費者を満足させることの出来ないメーカーは脱落する。同時に、非機能的価値の重要性を認識できないメーカーは成功しない。
“What is a Brand?” は1971年に発表されたがそこで語られた原理、原則は今日においても正しいと思う。
機能的価値に非機能的価値をブレンドして作られたブランドは消費者に支持されると小売業も受容するところとなる。マージンは維持され、マーケティング予算が確保でき、製品開発も進められる。継続したブランド広告がブランドを成功させ、メーカーを成功にみちびくのだ。
パーシルの事例
英国のユニリーバのパーシルという洗剤のブランドは一貫して「家族思いのパーシルママ」を通し、「白いものはより白く」「色物はより鮮やかに」という製品機能を広告してパーシルというブランドを英国の家庭のファミリーの一員にしたといってもいいと思う。
紹介された「ダートコレクター」の広告は頑固な汚れを落とす機能とダートコレクターのチャンピオン(汚す名人)の腕白小僧と子供思いの優しいパーシルママのケアという非機能的価値が良く表されている。
全自動洗濯機が普及するとユニリーバは全自動洗濯機の主要メーカーからパーシルの使用の推薦を取り付けた。(パーシル・オートマチックのパッケージのバックには主要全自動洗濯機メーカーのブランドからの推薦が入っている。)
パーシルは全自動用洗剤の「パーシル・オートマチック」を出して洗濯機メーカーの推薦を訴えることになるが主役は「パーシルママ」で広告は「ウイニングチーム」というかたちでアピールした。ウイニングチームは(ママの選んだ)ホットポイント(全自動のブランド名)とパーシル・オートマチックとママだ!もちろん全自動のブランドは何篇か替えられた。パーシルママはあなたなのだ!あなたとあなたが選んだ全自動洗濯機とパーシル・オートマチックが洗濯のウイニングチーム!ということだ。
定性調査でのパーシルとアリエールを人に例えるとどう違うかを調査の対象者は生き生きとその違いを語っている。(第5章参照)
日本での事例
日本のケースでもブランドの個性の違いを明らかにしている。
ユニリーバ「ティモテ」に見るブランドの個性を参照されたい。
ブランドの個性の継続性については例として、「フイルムスターが愛用するラックス」と「ウールマークのリニューアル」を見てほしい。
キングさんは2006年に亡くなられたが私が1980年から81年にロンドンに赴任した際、彼は健在でアカウントプランニングのリーダーとして活躍されていた。その時プランニングツールキットの標準化の教えを得られた。彼からの教えは生涯の財産だ。
後年ツールキットに「消費者のバイイングシステム」という考えが加えられた。これはプランニングサイクルの消費者の分析(今どこにいるか?)を一層ビビッドでリッチなものにした。
キングさんの教えを東京の戦略プランニング局、クリエイティブ、アカウントマネージメントを対象としたワークショップを繰り返しおこない徹底した。1980年代に JWT Worldwide Professional Standard Committee が組織され、私もその一員としてヨーロッパはじめ、アジアパシフィックのJWTオフィスと共同でジェームス・ウエブヤングセミナーを実施し、伝播させて行った。
2000年初めまでにアメリカにもTool Kit の考え方が普及し、JWTグローバルのものとなった。JWTはこの Planning Tool Kit の教えの原理・原則を大切にしてほしい。継続は力なりだ。
キングさんが1988年にリタイアされた時、ロンドンオフィス(当時は40 Berkeley Square)の裏手のFarm Streetにあったゲストハウスで送別ディナーが行われ、私も東京から出席した。特別誂えの絹張の表紙の日本版 Planning Tool Kit と “What is a brand?” の邦訳版VTRを感謝を込めてお渡しして別れを惜しんだ。