実証事例
キングさんとブルモアさんは継続したブランド広告がいかに大事かをトイレットペーパーのブランドのケースヒストリーで実証している。
1960年代にスコット社のアンドレックスとキンバリー社のデルシーは英国のトイレットペーパーの2大ブランドだったが御多分に漏れず小売業のプライベートブランド(PB)の進出に悩まされることになった。
キンバリー社はデルシーのマーケティング予算を削減し、その予算を値引きに回してPBに対応した。当然広告は削減された。
一方、スコット社はアンドレックスのマーケティング予算を維持し、ソフトで強いという機能価値と優しく、家族思いの主婦の選択するブランドという非機能的価値を基にしたブランド広告をTVとプリント広告などで展開した。
その結果、時系列的にみると両ブランドのマーケットシェアの推移は明暗を分けた。
ブランド広告を維持したアンドレックスが市場でトップブランドとしての位置を維持、向上させたのに対して、デルシーはPBに押されて大幅にシェアを落とした。
アンドレックスは適切なマージンを確保。その結果、製品改良、新製品開発といった機能面の強化の予算も確保でき、デルシーとの差は更に大きくなっていった。メーカーと消費者のダイアログがいかに大切かを示すケーススタディだ。
成功要因
ブランドの継続した広告努力が成功の主要因の一つであることがわかる。
ブランドの機能的価値と非機能的価値の上に立った広告戦略がブランド広告に大切なことは言うまでもない。JWTロンドンの扱うブランドの広告は10年以上基本の広告戦略が変わらないものが多かった。
パーシル、ギネス、キットカット、ポロ、アフターエイト、ブラックマジック、スマーティー、ケロッグ、NATWEST(銀行)、アンドレックス、ガーディアン(新聞)等々着実にブランド価値を強化していった。メーカーとエージェンシーのブランド価値の維持、改善の努力の結果はトップブランドとして成功する事につながった。
日本の場合
翻って、日本では長期にブランド広告を継続する努力が十分でないようにみえる。
一つの問題はブランドの広告戦略を維持しないことだ。これは多分にクリエイティブの外注が盛んなことに原因があるのかもしれない。
短期的にクリエイティブ担当(フリーランス)を採用する結果、広告がガラッと変わりブランドのパーソナリティーの継続性がなくなるケースがある。そこに問題があるのではと思う。
ブランドのカストディアン(守護者)としての役割をクライアントと担当エージェンシーは忘れてはならないと痛感する。
ともかく、日本で、成功したブランドが持っていたブランドの個性、特に非機能的価値を継続せず、空っぽの広告をみるにつけ培ってきたブランドの個性がなくなっていくようで悲しい。
日本の事例
小売業で長期的に製品機能価値と顧客の満足を加味したブランド広告を継続しているニトリやセブン-イレブンはマーケットリーダーの位置を確保している。日本の小売業のブランディング努力は特筆すべきだ。
ニトリは2002年にJWTがコンペの結果獲得した。当時、ニトリは本社機能を札幌市郊外に持つ小売業の会社で北海道以外では東北、北関東に数か所店舗展開しているに過ぎなかった。
私達はニトリの新しい製品の広告を手掛けることになったが、ニトリの迅速な本州での店舗展開に合わせ、商品の品質とそれに見合う価格という機能価値をヒューマンな温かさに包んだ広告路線を展開し、「お、ねだん以上」というコピーに集約させた。当時のコピー担当のクリエイティブディレクター、伊藤尚之さんの傑作だ。
ニトリの広告は一貫してこのコピーを使い続けている。
ニトリは400店舗、売上高4,000億円、家具小売業のトップメーカーとなった。