プランニング サイクル
スティーブン・キングさんは成功するブランド作りにはアカウントプランニングの戦略立案と効果測定を継続して行うことの重要性を説き、「プランニング サイクル」という継続したプランニング手法を導入した。
ブランドは確立された戦略に基き広告し、継続してブランドの現状の効果を検証し、今後の方向を修正したり、強化を続け主要ブランドの価値を長期にわたり確保する努力が大切。そのための手法が「プランニング サイクル」である。
今ではダイレクトマーケティング、PR、デジタルやデザインエージェンシーまでこの手法は広く普及している。
機能的価値と非機能的価値
「企業の成功は製品によってではなく成功したブランドによる」
“What is a brand?”より
ブランドは機能的価値と非機能的価値のバランスの上に立っている。
例えばコカ・コーラとペプシコーラ。のどの渇きをいやす、コーラの味と色、炭酸の味。こうした製品の機能的価値はあまり差がない。ペプシが70年代後半から80年代前半に行ったペプシチャレンジというキャンペーンでは目隠しテストで好きなコーラを選ばせる実写の広告で、キャンペーンが行われた国での試飲会(目隠しテスト)ではコカ・コーラとペプシコーラの選好率はほぼ50:50で互角だった。(日本ではコカ・コーラ52:ペプシ48くらいであった。)
ではブランド名を見せると日本では90:10!つまりブランドの非機能的価値ではコカ・コーラというブランドの選好度は圧倒的だったということだ。非機能的価値がいかに大切かを物語っている。
ブランド パーソナリティ
機能的価値と非機能的価値のブレンドでブランドがあるのだがこれをブランドエクイティ(ブランドの資産)というところもある。キングさんとブルモアさんを中心としたJWTではブランドの個性(ブランド パーソナリティー)と定義した。
ブランドの個性と呼ぶ方がブランドが生き生きと生きているようでブランドの成長、成熟が進行するという観点で理解しやすい。だから半永久的に継続するプランニング サイクルが重要なのは言うまでもない。プランニング サイクルにより、「生きている」ブランドを、いまどこにいて、なぜそこにいるかを検証し、どこにいくかを考え、どうやってそこにいくかアイデアをだす。
それで終わりではなく次は目標としたところに到達したかを確認し、そこがまた今どこにいるかという次のサイクルの出発点に入ることになる。生きているブランドをより成功させるために半永久的に付き合うことになる。
ブランドの個性を形づくる要因はいろいろある。
この図のように製品自体、ユーザーの使い方、競合品とその歴史、価格、流通、陳列、広告やプロモーション、パッケージング、ブランド名、メーカー自体などが挙げられる。これらが影響しあいブランドの個性つまり全体像が印象づけられる。
こうした要因はメーカーがコントロールできるものもあればできないものもある。広告やプロモーションは最もコントロールしやすくブランドの個性に大きな影響を与えやすい要因と言える。長期の継続性のあるブランド広告は、投資対効果を最大化するために大切だ。
例えばユニリーバのラックスはフイルムスターが愛用する化粧石鹸として「私はラックスを使ってます」というスターの推薦広告を通し世界共通のブランドとして大成功した。
統一したブランド戦略をグローバルに適用し、広告制作費用(スターの契約金を含む)を各国で分担する方針を打ち立てていった。マルチナショナルエージェンシーのブランドコーディネーション機能はブランドのグローバル化を考えるクライアントにとって不可欠なものだ。
コカ・コーラは「ワンワールド ワンサウンド!」といったが、それをパートナーとして具現できるのはグローバル コーディネーション機能をもち、一業種一社を守るマルチナショナル エージェンシーだ。
西武と阪急
かって有楽町マリオンという同じ建物に西武百貨店と阪急百貨店が並んであった。西武と阪急をブランドとしてみると、どのような要因が個性を際立たせていたのか?また顧客はどうして西武をまたは阪急をより好んだのか?興味深いトピックであった。
トップマネージメント、親会社(電鉄)、関連会社(ホテル業)、プロ野球(当時はライオンズvs.ブレーブス)等々特異な外的要因があり、擬人法(質的調査)で調べてみれば、両ブランドの全体像がハッキリと浮き彫りになったことだろう。はたして、消費者は西武と阪急をどのような人と表現しただろう。
ニトリ対IKEA、CAINZのブランドの個性の違いなど、小売業のブランドの機能的価値と非機能的価値の検証はチャレンジングな課題ではある。
ペプシチャレンジ
ところで、ペプシチャレンジは目隠しテストのキャンペーンでは「えー、本当!」というハッピーサプライズを生んだがその効果は日本では「初めての比較広告」と広告業界の話題になったが、短期的なものだったし消費者のブランド選好度に大きな変化はおきなかった。機能的価値だけで訴求する限界は明白だった。
アメリカのペプシチャレンジは違った!ソフトドリンク市場は屋外市場(On Premise Market)と家庭内市場(Take Home Market)があるが、ペプシは家庭内市場で強く、強力なナンバー2だった。そうした背景の下に、ペプシは目隠しテストに続きエモーショナルなブランド広告を展開した。高速道路を走るコカ・コーラのトラックをペプシのトラックが追い抜いて行ったり、コカ・コーラとペプシのベンディングマシーンが並ぶところに男の子が女の子にペプシを薦めたりという広告に始まり、未来の世界でコカ・コーラの化石を見つけ、考古学者が子供たちに「昔はこんな商品があった!」というような明るいユーモア溢れる「チャレンジ」で大反響を起こした。
この成果の裏には、ペプシの継続したブランド広告があった。アメリカでペプシは、いわゆるストリートワイズ(ハングリーでがんばっている)の若者に絶えず夢を与える広告をしてきた。(例えば”Give Live Campaign”のような若者に希望を与えるブランド広告)この延長線上にアメリカのペプシチャレンジがあった。消費者はペプシのユーモア溢れるコカ・コーラへのチャレンジに好意的に反応し、ブランドリーダーのコカ・コーラはこうしたペプシの非機能的価値に基づいたチャレンジに対して守勢に回らざるをえなかった。
日本ではペプシは新しいチャレンジを始めた。フランチャイズ制を廃止し、サントリーとパートナーシップを組み流通は格段に整備され、新しい製品が導入された。新しいチャレンジ広告のスタート準備が整った。はじめて日本流のチャレンジ広告が始められる環境が整った。
日本ならではのチャレンジは鬼が島の鬼退治だ。鬼がだれか言うまでもない。初めて日本独自のペプシチャレンジのビッグアイデアだ。(目から鱗!)
継続は力なり、がんばれペプシ。
非機能的価値でブランドが成長
新しい製品機能が開発され、それにより差別化することで一旦優位にたつ事ができても、競合ブランドはすぐ模倣し改良する。しかし非機能的価値は固有の個性に基き多くの人々の共鳴を受ければ、競合ブランドは模倣したり、凌駕したりすることは難しい。
機能的価値に加えて、ブランドの非機能的価値を継続してアピールすることでブランドは成長し、成熟し、それによって企業が成功するのだ。