「サンシルク」を超えるブランドの開発
ユニリーバのサンシルクはヘアタイプ別のシャンプーとリンスという当時としては画期的な機能を持つブランドであったが5%のマーケットシェアを超えることはなかった。
競合のトップブランドに拮抗する、マーケットシェア15%を超えるヘアケアブランドを開発することがユニリーバのトッププライオリティのプロジェクトとなった。
朝シャンブーム
70、80年代までに戸建て、マンションといったマイホームが促進され、家庭のバスルームの設備も良くなり、シャワーが普及した。
JWTの調査によると当時、若い女性の入浴回数は週平均2.7回であったがまだまだ伸びしろがあった。
若い女性、ことに女子高校生と中学生は毎日朝、登校前にシャワーをし、シャンプーをするようになった。化粧のできない彼女たちにとって夜シャンプーして寝ると朝、ブローして、寝ぐせをとる面倒があったが、朝シャンプーをすることにより、髪を整えやすくなり、しっとり輝く髪で自分を美しくみせることができた。
いわゆる「朝シャンブーム」が起こった。
同時に毎日洗髪しても髪を痛めないシャンプーのニーズがあった。また、当時、化粧のできない、ティーンエージャーには飾らない、自然で、健康な美しさが最も大切だった。
このような若い消費者のニーズに合う新らしいブランドの市場機会が確認できた。
サンシルクの自然の成分配合という機能アピールと、エンドベネフィットのナチュラルビューティーという非機能的アピールを踏襲しつつより大きな成果を上げるブランド開発が急がれた。
オリジナル「ティモテ」
ユニリーバは1970年代にスウエーデンで発売した「ティモテ」というブランドのシャンプーを持っていた。「ティモテ」は北欧の「チモシー」と呼ばれる、髪にやさしい野草(ハーブ)が配合された髪にやさしいシャンプーとして成功していた。
グリーンのシャンプー液、ハーブのさわやかな香り、白いボディと野草のイラスト、グリーンのキャップ。すべてが髪にやさしい、自然なシャンプー。
ブランドの個性は広告により、北欧の春を楽しむ若く、素朴な乙女を通し、健康で飾らないナチュラルビューティーを投影していた。
ジャパン「ティモテ」
自然の成分、ハーブエキス配合の髪に優しいブランドの機能アピールは「朝シャン」のニーズにピッタリ。オリジナルティモテの広告は北欧の美しい草原を楽しむ素朴な乙女を通し表現されていたが、飾らない自然で素朴で健康なユーザーイメージ(非機能アピール)はターゲットのティーンエージャーの自己表現にピッタリであることが調査で確認された。
また、オリジナルティモテの製品、パッケージ、ロゴタイプ、ハーブエキス、香りも踏襲されることになった。
髪にやさしい、自然の成分配合で、髪に漂うさわやかなハーブの香りと健康で、優しい乙女のユーザーイメージは若い日本の女性に大歓迎された。
ブランドの個性が最も強力な差別化アピール
ティモテの発売を受けて競合メーカーも髪にやさしいマイルドなシャンプーを開発した。ティモテが天然ハーブ配合のナチュラルでマイルドなシャンプーであるのに対して競合ブランドはマイルドさのサポートとして化学的成分を用いていた。その意味ではティモテと対極に位置するブランドだった。
同じようにマイルドなシャンプーという機能的な特徴を持っている以上、非機能的な、気持ちに訴える差別化アピールが重要になってくる。ブランドの個性により差別化するのが最も効果がある。
ティモテのイメージ
消費者はブランドの個性を生き生きと表現できる。定性調査でブランドを人に例えるとどのような人か?どんな生活をしていると思うか?ということを絵に描いてもらうと、ティモテは森の自然な環境に住む素朴で健康な乙女との反応だった。
ティモテのさわやかで素朴な優しさが感じられた。
競合ブランドのイメージ
一方競合ブランドが都会のしゃれたマンションに住む、オシャレで無駄がなく、スマートだが反面人工的、理性的な大人のイメージが読み取れた。
若い消費者が一番心地よいと感じる個性を持ったブランドを選ぶ。それがティモテだった。
♪ ティモテ~、ティモテ、ティモテ~ ♪
ティモテは1984年に発売されたが、オリジナルティモテの広告にブランド名のティモテを歌いこむオーディオで急速に浸透していった。髪にやさしく健康な美しい髪にするというティモテのエンドベネフィットは、家族全員に受け入られる汎用性があった。
家庭内消費の購買者である主婦層に受け入れられた。ティモテは中学生、高校生の女性のニーズを満たし、家族全員が使うヘアケアブランドとして大ブレークし、一時は20%のマーケットシェアをとった。
ティモテシャンプーとコンディショナー(リンス)はJWTが手掛けた大きなサクセスストーリーであった。