広告はエンターテイメント、人は観客
今ほど世の中が刺激に満ちている時代はないでしょう。多様化するメディアから溢れる大量の情報と興味津々なエンターテインメントの中に生活しています。
しかし、私たちに与えられているのは1日24時間。8時間眠るとすると、生活時間は16時間、960分しかありません。だから、人は自分にとって面白い、価値のあるものにしか時間を割きません。
情報が、広告が、エンターテインメントがこの960分という限られた時間を奪い合っているのです。つまらないCMに人は付き合いません。ですから、広告をエンターテインメントとして考え、人は観客として見なければなりません。
観客は残酷で、つまらないものに、1秒たりとも時間を使ってくれません。人を魅了するコンテンツで楽しませなければ私達のブランドに時間を使ってくれないのです。
伝説のCMディレクター 杉山登志
さて、60年代から70年代始めの時代も、日本が大きく変わった頃です。
東京オリンピック、大阪万博など国を挙げてのイベントがあり、TVはモノクロからカラーへと、まさに日本が元気を取り戻した時代でした。
この頃に活躍したCMディレクターの杉山登志氏を題材にした番組がテレビCMの日スペシャルドラマとして放映されました。
杉山さんは私がJWTに入社した頃、すでに広告界のスーパースターのクリエイターでした。
番組で当時彼が制作した数々のCMが放映されましたが、そのコンテンツは懐かしいだけでなく、今でも新鮮で、刺激的で、私はわくわくしました。
そこには見る人を楽しませるドラマがありました。
まさにエンターテインメントです。
広告は消費者のインサイトに基くべき
彼は広告に嘘はあってはならないと主張しています。
今流に言えば消費者のインサイトに基いていなければならない、ということでしょう。
アイデア作りに苦闘し、狭い編集室でラッシュフィルムを編集する真摯な姿にクリエイティブの原点を見た気がします。
「嘘をついてもバレるものです。」という彼の言葉は30年以上経った今でも正しいと思います。
モビオラの音、編集用手袋とデルマに忘れていた懐かしい往時のCM作りを思い出しました。
私ですら、彼と一緒に仕事が出来た人がうらやましいと思ったくらいですから、このスペシャルドラマは広告のプロを目指す若者に大きな刺激を与えたことでしょう。
ところで、彼の時代にアカウント・プランナーがいて、しっかり消費者のインサイトを掴んだクリエイティブ・ブリーフを彼にしていたら、あんなに一人で苦しむことはなかったかもしれません。