ロンドンのパブとビターに魅せられて

ロンドンパブの絵-01ロンドンパブ-02

Brian Woy 1980/1981

英国人とパブ

英国人にとってパブは欠くことのできない生活の一部と言えるだろう。

だからイギリスにはどこの町にも村にも必ずと言っていいほどパブがあった。

イギリスには「Good Beer Guide」という全国のパブとそこのおすすめのビターが収められているガイドブックがある。これさえあればどこにいっても土地のお勧めのパブでおいしいビターが飲める。小旅行する時は必ず携行したものだ。

仕事場のパブ

仕事場であったバークレイスクエア(メイフェア地区)のJWTロンドンの周りには社員の行くパブが数軒あった。特に「Coach & Horses」はポピュラーなパブでJWTのアカウントマネージメント、クリエイティブ、アカウントプランナーのたまり場だった。

ビターやジントニックを飲みながら仕事の打ち合わせをするアカウントプランナー、クリエイティブ、アカウントマネージメントの人たちでにぎわっていた。しかも会社のうわさ話、クライアントや業界の話等々酒の肴には事欠かない。もう1パイント!となる。

話題が違うせいもあってかメディアや、経理やトラフィックといったバックルーム部門の人たちには別の行きつけのパブがあった。

こんなに昼も夜も飲んで、いつ仕事をするんだろうと思った。

ランチ時に飲むと午後は眠くなって困った。3時のティータイムに熱いミルクティを飲んで一息つくと夕方。また一杯となるのだ。

親しかったプランナーに「君が仕事をしているのを見たことがない」と冗談めかして言うと「人の目に触れないところで仕事をしている」と返してきたものだ。

パブの流儀

ところで英国のパブには営業時間規制があった。パブ好きの人々を放任するわけにはいかないのか、一日の営業時間は9時間半。営業時間は地域によって異なるが当時、ロンドンオフィスの界隈では、昼は11:00-15:00、夜は17:30-23:00であった。

また英国は大変度量衡の厳しい国で、ビールのパイントグラス(568ml)とハーフパイントグラス(284ml)にはビールが規定の量が注がれてることを示す目盛り(後に王冠マーク)が入っていた。泡抜きで、その目盛りまでビールが入っていなければ違反というわけだ。

日本では泡がなければビールのうま味が逃げると泡を入れたが、その分は売り手の儲けになった。こんなやり方は英国では通用しない。

ビターの美味しさ

ここでいうビールとはいわゆるビター。ギンギンに冷えて泡が適度にあるラガービールに慣れ親しんでいる日本人には、泡のない常温に近いビターにはなじめない人が多かった。

しかしビターに慣れるにしたがって、常温に近い飲み口からビール本来の美味しさが分かるようになった。

地場のビターの美味さは懐かしい。

AXNミステリーの英国ドラマ「主任警部モース」には、必ずと言っていいほどモースと部下のルイスがパブでビターを飲むシーンがある。おいしそうに2人がビターを飲むのを見ては、おいしいビターが飲みたいと思うのだ。

郊外のパブ

私の住んでいたパトニーはロンドン市内の南西地区にあり、ウインブルドンに近く、テームズ川に沿っている。テームズにかかっているパトニーブリッジのたもとにはオックスフォードとケンブリッジのボートの艇庫があり春になると対抗試合に向けてローイングの練習が盛んになった。艇庫のそばにはパブがあったがオックスフォードの人たちが行くパブとケンブリッジの人たちが行くパブは別々で呉越同舟とは行かないのだ。

パブによってはブルーカラーの客とワーキングクラス以上の客の入り口が別であるところもあった。パブの中には別に仕切りがあるわけではなかったと記憶しているが両者が一緒に飲むことはなかった。

こうしたクラス意識には違和感を覚えた。飲み物や値段に差があるわけでもなく、ブルーカラーの人もワーキングクラス以上の人も同じ、ラガー、ビター、ギネススタウトやジントニックを飲んでいるのだからと思った。クラス意識は私達には理解できなかった。

愛犬とパブ

だから私は週末は近所のいわゆるビレッジパブの「アラブ ボーイ」に愛犬サムを連れて飲みに行った。ここはクラスの差別もオックスフォードもケンブリッジもない。

ただし、子供は入れない。入り口の外に子供が待っている小部屋のあるところもあった。酒場に子供を同席させないのだ。子供のしつけは厳しい。と同時に子供に大人になったらパブで一杯やるンだ!という気持ちにさせているのかもしれない。

住んでいたパトニーからオフィスに通勤する途中、パトニーのパブに最寄りのビールの醸造所から馬車で樽詰めのビターが運ばれてくるのをよく見た。

ビールはできるだけ近場から振動を与えないで運ぶのがいい味を保つといわれていて2頭立ての馬車が使われていた。

運ばれてきたビヤ樽がパブの地下に卸されるのを横目で見ながら出勤したものだ。

平日はしかしながらパトニーでこの美味しいビターを飲むことはなかった。オフィスのあるバークレースクエアのパブの止まり木にいたからだった。


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