愛犬サムとゴルフでまわったセントアンドリュースのオールドコース

オールドコース
ゴルフの聖地、世界最古のゴルフ場 (撮影: 長島忠一氏)

Old Course at St Andrews

「私たち」がセントアンドリュースのオールドコースをまわったのはもう十年も前の事です。

「私たち」とは私と家内の事でもなければ、私と娘の事でもありません。家内は当時まだゴルフを始めていませんでしたし、娘はまだパディントン・ベアに熱中していました。

それは11年前、私がロンドンに転勤になった時、家族と一緒に連れて行った犬のサムと私の事なのです。

びっくりなさるかも知れませんが、英国のゴルフコースの中には、犬を連れてプレーする事を認めているところがあります。セントアンドリュースのオールドコースもそうしたゴルフコースのひとつでした。

例のザ・ロイヤルアンドエンシェントクラブハウス」と、スウイルカン・ブリッジ」を前方に見て、18番ホールでティーショットをする私と、脇でそれを見つめているサムの写真を見る度、「私たち」のオールドコースでの一日が思い出されます。

サムを連れてオールドコースへ

家内と娘が友人の奥さん、その息子さんとエジンバラで一日市内観光をしている間に、友人と私はサムを連れてセントアンドリュースのオールドコースを訪れたのです。

1番ティーグラウンド脇にあるスターター・ボックスで時間を取り、友人とサムと一緒にコースに出て行ったのはちょうどお昼ごろと記憶しています。

1番のすぐ右隣の白い柵の向こうはプレイグラウンドで、家族づれの人がたくさん遊んでいて、閉鎖的な日本のゴルフ場と全く異なった趣でした。

ラフはひざまでもある雑草と、30センチほどの丈のヒースと呼ばれる低灌木以外、まわりに緑の木もなければ花もない。

気候のいい6月末だというのに、肌寒い風が海から吹いている。

それは荒涼としたコースでした。

茶色の和犬の雑種で、35キロもあった大型犬のサムは、ロンドンの林間コースよりスコットランドのオールドコースの、リンクス特有の殺風景で野性的な雰囲気の方がなぜかピッタリしていました。

飲まず食わずでコースをまわる

オールドコースは細長い岬に18ホールがレイアウトされていて、岬の根元にあるクラブハウスの前のティーから岬の先端の9番に向かって出てゆき、インは折り返し10番からクラブハウス前の18グリーンに帰って来るようになっています。

9番から10番への折り返し地点(クラブハウスから一番遠い所)はおろか、途中どこにも売店もトイレもありません。

サムも私も18ホール飲まず食わずでまわったのです。

ホールによっフェアウエイ中央でも大波のようにうねっていて、グリーンは望めません。

サムは私に付いて、強烈なアンジュレーションのあるコースをまるで小山を登ったり下ったりする様に歩きました。

サムとオールドコースのクラブハウス

私がグリーンに上がると、お座りと言わなくても、ヤレヤレといった具合でグリーンサイドに伏せをし、大きな舌を出し、「ハアハア」、私のパッティングが終わるのを待つのです。

「サム、ここがゴルフの発祥の地だぞ」と言っても分かるはずがありません。

今日の散歩はいつもと違う位には感じていたかも知れませんが...

霞台カントリークラブを思う

私自身、この日ほど手入れの行き届いた、美しく楽しい霞台カントリークラブを懐かしく思った事はなかったものです。

18番をホールアウトした時は、まわりで観ている観光客から拍手され、かの友人と私は何となく照れ臭く感じました。

18番からグリーン手前の「罪の谷」と呼ばれるうねりにうねった花道を歩き、やっとグリーンにたどり着いた感じのサムは、いかにも長い散歩だったとでも言う様に長い舌を出し、私をじっと見つめ、のどの渇きを訴えるのです。

たっぷり水を飲んだサムは、帰りの車の中では、リアシートにゴロンと横になったきり、エジンバラまでぐっすり寝ていました。

私はもとより、サムにとっても、オールドコースの一日は日本では経験できないものでした。

サム、霞台へ

翌年日本に帰ってきたのですが、サムはあまり暑くない春や秋には、霞台にも来ています。

と言っても駐車場の車の中で待っているのですが...

私が9ホールのプレーを終わると、サムを車から出し、まわりを少し散歩させ、水を飲ませます。

そして車に戻り、私の帰りを待つのです。

サムはオールドコースの様にコースを歩いたことはありませんから、霞台の方がもっと美しく楽しいコースだということは知る由もありません。

林の中まできれいに刈り込まれ、芝が張られたという新設された6ホールを含む霞コース。

池越えのパー4になる筑波コースのアウト3番の美しさは危険がいっぱいです。

同6番はシャクナゲが、素晴らしいショートホールにしてくれそうです。

同7番は池が出来るそうで、レイアウトが一層際立つに違いありません。

素晴らしい出来栄えの霞・筑波の両コースに思いをはせ、お正月を待つ子供の様にワクワクしているのです。

ゴルフ発祥の地に敬意を表しているかどうかは定かではありませんが、18ホール、オシッコもせずに付き合ってくれたサムはこの4月、16才の天寿を全うしました。

「私達」でなく、私と家内とで、いよいよ5月11日、霞コースのアウト・イン18ホールにチャレンジします。

「サム、天気は快晴を頼むぞ。」と祈らずにはいられないのです。

(霞台カントリークラブ会報誌 平成3年5月号より)


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