LUXのブランディング
JWTが担当エージェンシーとして長い間扱ってきたLUXはユニリーバ社の主要ブランドだ。そのLUXの日本での広告についてはすでに述べたが今一度、LUXのブランディングについて振り返ってみたい。
LUXは日本では、今でこそヘアケア商品のブランドになっているが、1970年代までは化粧石鹸のブランドだった(LTS: Lux Toilet Soap)。
日本では戦後、LUXは進駐軍の横流れでしか手に入らない高級化粧石鹸として評判が高かった。
その後、商社のドッドウエルの輸入により、ユニリーバ・エクスポート・(UEL)扱いのLUXが日本に入ってきたが化粧品店や雑貨店、スーパーマーケットといったいわゆるバラ売り市場向けの商品だった。
ユニリーバは豊年製油と合弁会社、豊年リーバを日本に設立し、LUXはUELから引き継がれ、本格的に日本でのマーケティングをすることになった。1972年のことだ。
贈答用LUXの開発
当時は高度成長期まっただ中でデパートを中心にお中元、お歳暮の贈答市場に大きな需要が見込まれた。化粧石鹸はこのギフト用の需要に恰好の商材だった。
デパートを中心としたお中元・お歳暮という日本特有のギフト市場に狙いを定め、より高品質な付加価値をつけたLUX化粧石鹸をギフト用に開発した。
石鹸をギフトにするという考えは外国ではありえない。日本におけるリーバのマーケティング発想だった。
石鹸の主要成分はココナッツオイルと牛脂で前者の割合が高いほどクリーミーで泡立ちがよく、しっとりした洗いあがりで大切な肌の手入れに優れていた。
LUXは“スーパー・ファッテド(Super Fatted)“と呼ぶココナッツオイルたっぷりの製品を開発した。LUX Specialの導入だ。ユニリーバは東南アジアにココナッツ・プランテーションを占有している強みで独自でココナッツオイルが供給できた。スーパー・ファッテドのLUX Specialの品質の高さに国産メーカーは太刀打ちできなかった。
その後、LUX Specialに加え、最上級品のLUX Imperialを発売し高級化粧石鹸のポジションを確固たるものにした。ギフト用LUX SpecialとLUX Imperialは日本限定商品でバラ売りのLUX Beauty Soap が紙の包装(ラッパー)であるのに対し、贈答用のLUX SpecialとImperialは高級感溢れるフィルム素材の特殊な包装でデザインもバラ売り用のLUXとは明確に差別された。
ギフト市場のトップブランドとしてLUXは贈答市場で大成功しセールスは大きく伸び一躍化粧石鹸のトップブランドになった。
“I use LUX” 「私はLUXを使ってます」
ブランディングには機能的なアピールと非機能的なアピールでブランドの個性を際立たせ、競合との差別化を図ることが大切だ。製品の品質を通し機能的な差別化を図るとともに、LUXのフィルム・スターの広告により非機能的なブランドアピールを確立した。
フィルム・スターの広告について述べたい。フィルム・スターの広告はいわゆるタレント広告ではない。フィルム・スター自身の使用体験からくる個人的な推薦を基本としている。
フィルム・スターが愛用し、肌の手入れにLUXを使っていることを語り掛け、本人の声で自ら推薦する。日本で採用されたフィルム・スターは「私はLUXを使ってます。」インターナショナル・スターは“I use Lux” と語りかけた。いわゆる、Star Endorsementだ。
また、ギフト広告は日本のフイルムターが「私はお世話になった方々に今年もLUXを送ります」と高品質なLUXのギフトを推薦した。
当時、撮影はコマーシャルでほとんど使われていなかった同時録音(リップ・シンクロ)で行われた。フィルム・スターの本人の生の声で推薦することでLUXと石鹸によるスキンケアの大切さを強調し、フィルム・スター個人の推薦に真実味をもたせた。JWTロンドンで制作されたインターナショナル フィルム・スターの広告素材を各国のユニリーバのクライアントのマーケティングにJWTを通し提供していた。
こうしてJWTがグローバルネットワークを利用して全世界共通のLUXのブランディングをフイルム・スターのキャンペーンによって、進めていった。1960年代のことだ。
制作費(スターの契約金を含む)はJWTを通し、使用する各国のクライアントが共同で負担した。大スターを使用する各国の負担金はこうして軽減された。
世界のフイルムスターのLUX
日本では1972年からキャンペーンが開始されたが世界各国とインターナショナル フィルム・スターの広告を共有することでブリジット・バルドー、ソフィア・ローレン、ナタリー・ウッド、ジェーン・シーモア、ジェラルディン・チャップリンなどのフィルム・スターの登場が可能になったわけだ。フイルム・スターのLUXブランドを確立する上でフイルム・スターのキャンペーン効果は絶大だった。
こうして日本のフイルム・スターとインターナショナル・フィルムスターがLUXを推薦するという一貫した広告活動を継続することでLUXのブランディングが完成していった。
LUXの日本での市場開拓の戦略とブランディングから多くのことを学ぶことができたことはかけがえのない経験だ。1980年代に入ってLUXとフィルム・スターの広告はLUX シャンプーを中心としたヘアケアブランドに引き継がれていくことになる。