ターゲットグループを分析するために
ブランドの個性に関連し、ターゲットグループの事について述べたい。
1984年にJWTジャパンでは日本で初めての戦略プランニング局を立ち上げアカウントプランニンの仕事を始めた。
- プランニングツールキットの標準化
- ワークショップでの継続したトレーニング
- シングルソースデータベースの開発
- アカウントプランナーとクリエイティブを支援するイン・ハウスの定性調査機能(ロンドンではクリエイティブリサーチといったが東京ではQサーチと呼んだ。)
といった機能が必要だった
シングルソースデータベースを独自開発
シングルソースデータベースは製品、サービスの広い分野でのブランドの購入頻度や使用状況、サイコグラフィック/ライフスタイル情報、媒体接触状況をシングルソースから測定できる。
英国ではTarget Group Index(TGI)という包括的なシングルソースデータベースがあり、どこの代理店でもクライアントでも購読できた。当時、日本はそこまでいっていなかった。そこでJWT独自のデーターベースを開発することになった。JWT Consumer Dynamics Study(CDS)の誕生だ。
CDSは3,200サンプルの完全回収のデータを基に消費購買情報からサイコグラフィック/ライフスタイル、媒体情報までを同一サンプルから得られるいわゆるシングルソースデータベ-スを開発した。
プランニング機能を持つこと自体「スタッフコストの増加」と批判的に見られた。その時期に多大な投資をし、CDS、Qサーチを保持した戦力プランニング局を設立させ、機能させることを推し進めてくれた当時のCEOであったノーマン・マクマスターさんのアカウントプランニングへの理解とバックアップほどありがたいことはなかった。おかげで強力なアカウントプランニング機能という武器を持つことになった。
ハーゲンダッツのブランド戦略
1980年代に東京でのアカウントプランニングの新しいチャレンジがスタートした。CDSとQサーチを駆使して、若く有能なアカウントプランナーが新しい戦略プランニングに取り込んだ。
ハーゲンダッツのブランド戦略は成人を対象としたプレミアムアイスクリームというポジションをとった。ハーゲンダッツが日本進出した当時(1984年)、日本のアイスクリーム市場は子供向けかファミリー向けの製品だけで、大人向けのプレミアムアイスクリームは存在していなかった。
アカウントプランニングはCDSとQサーチを駆使して、新しい広告アプローチを提案した。サイコグラフィックセグメンテーションに基づく戦略は今までにないクリエイティブの考え方を生み出した。
CDSの分析で成人男女を食品の付加価値を重視する層と重視しない層とに分類された。付加価値を重視する層は、値段が高くてもより高品質な食品を買う層だった。ハーゲンダッツのターゲットグループだ。
この層はさらに新しさ、ファッション性、高級感といった非機能的価値を重視する若い男女の層でブランド志向が強く、新しさに対する関心が最も高い層と、価格が高くとも高品質で天然素材を使う高級アイスクリームを買う主婦層とがあった。
前者をトレンドシーカー、後者をクオリティーシーカーと位置づけた。
ハーゲンダッツの広告には高品質、天然素材といった機能価値と新しさ、スタイリッシュでファッション性が高いという非機能的価値をバランスよく作り上げることが課題となった。
また、トレンドシーカーの高い支持を維持するには、ハーゲンダッツならではの大人向けプレミアムアイスクリームの新製品を継続して出す必要があった。
ハーゲンダッツはプレミアムアイスクリームとしての高品質な機能面と、大人の(特に女性の)嗜好を満足させる「ご褒美」(幸せ感)をアピールする非機能的価値を付加した新しい、最高の美味しさを打ち出していった。ブランド広告はトレンドシーカーをプライムターゲットとした。
ハーゲンダッツは伝統的なアイスクリームの価値に依存していた競合ブランドを追い越し、大人のプレミアムアイスクリームのトップブランドになった。
サイコグラフィック セグメンテーション
サイコグラフィック セグメンテーションはクリエイティブで新しい消費者像を描き出し、プランナーとクリエイティブの広告開発に貢献した。特にサイコグラフィック セグメンテーションに基づくアカウントプランニングは、ニュービジネス獲得に多大な成果をあげた。
米国でもサイコグラフィック セグメンテーションは大きな話題となっていた。
JWTニューヨークのリナ・バルトス女史が、働く女性のセグメンテーション、「Moving Target」を1981年に発表した。
女性が仕事に出て、社会に進出した結果主婦として、女性として、消費、購買者として、視聴者として、どのように変化して行ったかを語っている。
働くことへの価値観に基づく女性のセグメンテーション
日本でもCDSにより女性の社会進出と関連した価値観の変化を研究した。働くことに価値を持つ人と持たない人を横軸に、働いている人と働いていない人を縦軸に4つのセグメントを想定した。
- 働いていて仕事にやりがいを感じ価値を見出すキャリア志向の女性(Career)
- 働いているが生活の糧のためで働く価値を考えない女性(Just a job)
- 仕事をすることに価値を認め近い将来働く計画の主婦(Plan to work)
- 働くことに興味がない専業主婦(Stay at home)
これらの4タイプの女性についての女性像、主婦像、消費者像、媒体視聴者像等の情報は新しい視点をもたらし、女性の価値観、購買消費傾向や家庭内の仕事や家族との関係、ファッション、エンターテイメント、車、旅行、貯蓄等について関連するマーケティング機会のプランニングに利用した。
今日でもこれはかなりおもしろいテーマだと思う。サイコグラフィックセグメンテーションに基づく「ニューデモグラフィック」はどう変化してきたか?興味は尽きない。