ブランドの個性をプランする
キングさんとブルモアさんは定性調査の擬人法によるブランドの個性の違いを解説している。定性調査ならではのビビッドなブランド間の個性の違いはプランニングサイクルの現状の把握に大切なカギを与える。
また、担当するブランドが明確な個性を持たれていないとすれば、望まれる個性をプランする必要がある。短絡に語っているようだが問題は進行形だ。特に日本の様にキャンペーンごとにクリエイティブ担当が変わることがある場合、長期的に見てブランドの広告に一貫性がなく、個性はバラバラになってしまう問題が生じる可能性がある。それゆえ、クライアントと担当代理店はしっかりブランドの戦略を維持する役割を果たさなければならない。
ダイヤモンドの婚約指輪
定性調査はマーケティングの課題の解決にも貢献した。
日本のダイヤモンド市場は1960年代から婚約指輪の普及で拡大してきた。1960年代にダイヤモンド婚約指輪の取得率は3%~7%だったが1980年代には70%を超えて取得率は頭打ちとなっていた。そこでデビアス社ではダイヤモンド婚約指輪の購買単価を上げることによって、日本のダイヤモンド婚約指輪の金額面で市場拡大を図ることを考える必要があった。当時、ダイヤモンド婚約指輪の平均価格が給料の2ヶ月分だった購買単価を3ヶ月分に上げる可能性を検討した。3ヶ月の給料のガイドラインを示唆する是非を調査した。
受け手の女性は勿論のこと、愛の証として送る男性からも肯定的に受け入れられることが分かった。同時にデビアス社が培ってきたダイヤモンド婚約指輪の「永遠の愛のシンボル」という非機能的価値を損なわない形で3ヶ月分の婚約指輪の目安が広告されなければならないことがわかった。
新しい3ヶ月のガイドラインを啓蒙した広告によってガイドラインが定着して、日本のダイヤモンド婚約指輪の金額市場サイズを押し上げた。
業界調査
定性調査はまた業界調査でも有効だ。マネージメントとのインタビュー、業界の専門家の意見調査などでも貢献した。ユニリーバ社のヘアケア商品の業界調査(エキスパートパネルと呼んだ)はユニークだった。ヘアサロンの店長、トップヘアドレッサー、業界紙エディター、フリーランスライター等とのインタビューを定期的に行い製品開発の機会を探った。
業界のエキスパートから直接聞き取った“生”の情報はクライアントのマーケティングのみならず製品開発にも貴重なものだった。
擬人化法
定性調査はブランドの個性に関連しての調査では投影法の擬人化法を用いた。”What is a Brand?” では、英国のブランドについて擬人法を用いた調査で対象者の生き生きとした反応を紹介している。洗剤のパーシルとアリエールの回答者の回答は両ブランドの個性を大変鮮やかに表している。
日本での例として、ユニリーバのティモテと資生堂スーパーマイルドのブランドの個性の違いを挙げてある。詳しくはティモテの項を参照されたい。
ブランドの個性とユーザーの個性
ところでブランドの個性はユーザーの個性と同じではないことが多い。なぜなら、一人の消費者の購買行動を考えたとき、パッケージグッズでは彼や彼女は一つのカテゴリーの商品で複数のブランドを購入することが多いからだ。
例えば、コカ・コーラのユーザーとペプシのユーザーは大体同じ人物だ。だからユーザーの個性を結びつけることは意味が無い。コカ・コーラもペプシコーラもそれぞれ特有の個性を開発し、ユーザーにはっきりした個性(非機能価値)を示すことが大切になる。
コカ・コーラとペプシコーラを人に例えればどのような人と消費者は表現するか?日本と米国でどう違うか?両ブランドの個性の違いについて定性調査はどのようなことを示唆してくれるか知りたいところではある。
アフターエイト
ミントチョコレートの「アフターエイト」は広告にあるようにエレガントで洗練された上流社会のディナーの後でデザートとして楽しむ貴族の個性を持っている。(AXNの英国ドラマのダウントンアビーの世界だ!)
しかし英国のシングルソースデータベースTGI(Target Group Index)が示すアフターエイトのヘビーユーザーのプロフィールは、中流階級の中以下である。アフターエイトのブランドパーソナリティが中流以下のマスマーケットで支持されていたことがわかる。(英国では不安定な中産階級以下の生活に、アフターエイトの広告に描かれる上流社会の雰囲気が安心感を与える役割を果たしていると説明されているが...)
この章では1970年代の英国のJWTロンドンのブランド広告が紹介されている。
アフターエイト(ミントチョコレート)、マジコート(塗料)、スマーティー(マーブルチョコレート)、パーシル(洗濯洗剤)、ミスターキプリング(ケーキ)、コダックインスタマチックポケットカメラ、ギネス(スタウト)と取り上げられた広告はJWTロンドンのショーケースに入る広告だ。
どれも一貫性をもったブランド広告を長期に継続していた成功例だ。長期的に継続したブランド広告はギネスの話が参考になるだろう。(Guinness is good for you を参照されたい。)