向島の桜
1717年に八代将軍吉宗の命で隅田川の向島の土手沿いに庶民の楽しめる桜の名所を作ることになって以来、向島の桜は300年以上受け継がれてきた。文人、墨人はもとより庶民が愛した墨堤の桜。染井吉野がその中心。70年がその寿命と言われている。
地元の人を中心としたいわゆる「桜守」たちが何世代にも渡って桜を植樹し、育樹してきている。墨堤の染井吉野は関東大震災や戦災で焼け野原となった時も植樹されて今日に至っている。私の子供の頃は戦後10年経った頃で土手に植えられていた桜はまだ若い苗木だった。それから60年以上経っているからもう老木でそろそろ植え替えが必要になるはずだ。
育樹の重要性
ところで桜は植樹もさることながら桜を育てる「育樹」は手が架り、健康な桜を育てていくのは行政や住民の継続した地道な努力が不可欠。墨堤の桜はしっかりと次世代の桜の植樹と育樹が進められている。
ユニチャームの創業者である高原慶一朗氏の寄付を基に財団法人都市緑化基金を設立。この緑化基金が全国の自冶体から森づくりの提案を募集した。応募された提案から基金が選定して「高原基金の森」のプランとして森作りが進められた。墨田区は隅田公園「新・墨堤桜の森」を提案して基金に採用された。現在の桜とは別に墨堤の植栽地を整備させ、染井吉野と違う品種の桜や草木が植栽され「新・墨堤桜の森」として新しい名所を作る努力が続けられている。
東京の桜の名所である荒川土手や駿河台などをはじめとして、高知、新潟、石川県七尾、北海道松前、伊豆大島、河津やイギリス等からの30種以上の桜が植栽されている。植樹された桜は苗木から健康な若木に育っているが一つ一つの桜の名前、原木地、特長などの説明パネルが付けられている。例えばバイゴジ ジュズカケ ザクラ(梅護寺数珠掛桜)原木は新潟県北蒲原郡京ヶ瀬村梅護寺にあり「親鸞聖人数珠掛けの桜」といった具合だ。
30種以上の桜は満開時は4月で一斉に咲くよう考えられている。墨堤の桜・花見という名所(ブランド)がこうした継続した努力で生きているのだ。
夕張の桜プロジェクト
ところで2007年から北海道夕張市に桜の名所を作ろうとニトリが資金を出して桜の植樹に乗り出した。当時JWTがニトリの担当広告代理店だったが、私達は2万本の桜の植樹を目指して札幌や首都圏を中心に苗木の募金と植樹の一般参加を募った。夕張の桜プロジェクトは順調に進行した。「植樹」は三年がかりで行われ、炭鉱跡地の丘陵は2万本以上の苗木でいっぱいになった。ゴールデンウイークには盛大にイベントが行われ、立上りは大成功だった。
その後ニトリから夕張市に「育樹」がバトンタッチされた。順調にいけばそろそろ夕張の桜が話題になってもいいころだが…夕張の皆さんが主体で名所づくりをして、観光の名所を作る努力が大切。「育樹」の継続した努力が成功のカギだ。
夕張の公式サイトは下記のようになっているが、やはり桜守に苦労しているようだ。
http://yubarisakura.jp/
https://www.facebook.com/yubarisakura/
同じ北海道の釧路市でも「桜守」を育てる取り組みが始まったそうだ。「育樹」に人手がかかる。60人近い住民が登録して植栽業者から育樹や剪定、追肥の仕方を学び「桜守」を目指しているということだ。こうした地元の人たちの努力が、釧路に「桜守」をつくり「育樹」を継続させ桜の名所を発展させるに違いない。