ミス・マープルとポアロ
ケーブルテレビの人気番組にAXNミステリーがある。このチャンネルは探偵ものや刑事もののTVプログラムを放映している。海外の作品が多いが、私は英国の作品が好きだ。TVドラマとして放映された作品の中から私の感想を述べたい。
ミス・マープル
アガサ・クリスティー原作の探偵もの。ミス・マープルは初老の婦人ジェーン マープルを中心としてロンドン警視庁のスラック警部が手を焼く難事件を解決していく。
彼女はロンドンから南に1時間半の架空の村セントメアリーミードに住み事件が起きると登場する。(スラック警部が要請するわけではない!)
主役のジョーン・ヒクソンがいい。
原作者のクリスティーがヒクソンにマープルの年になったら是非マープルを演じてほしいと依頼していた。
ヒクソンは1984年から92年までBBC1で放映された12編でマープルを演じ、彼女の上品で理知的なミスマープルのイメージが定着した。このシリーズは吹替なしでその声と話し方が彼女の個性を際立ている。一見すると質素ななりの老婦人だが推理は抜群!スラック警部をして「肉切り包丁のすごみがある辣腕だ」と劇中で言わしめる!
劇中にイギリス人の生活ぶりがでてくる。ビリッジライフはもとより、例えば「バートランドホテルにて」編ではホテルでの朝食やハイティー(アフタヌーンティー)のシーンが出てくる。ロンドンならではのエレガントな雰囲気で、スコーンとクリーム、サンドイッチと紅茶がバトラーサービスとともに彩りを添えている。
因みに彼女はヤマウズラの料理が好物で中国の銘茶を楽しむ。ホテルはロンドンの老舗ホテルBrown’s Hotelがモデルになっているそうだ。こうした設定の中で殺人事件が進行していく!時代設定は第二次世界大戦後の1950年前半、当時の風俗が生き生きと描かれている。
登場するクラシックカーはよくこれだけのものがあると思う。カーマニアにはたまらない!さすがイギリスだ。もともとモノクロの作品だったがカラー映像にリメイクされた。
ミス・マープルも若返ったようで生き生きしている。シリーズは何度見ても面白い。
ジョーン・ヒクソンは1998年に98才で亡くなった。
ITV(グラナダTV)制作の続編が2004年~2012年にジェラルディン・マックイーワン(1~3シーズン)、ジュリア・マッケンジー(4~6シーズン)主演で制作されたが、こちらは吹替版で放映された。しかし、私には何と言ってもジョーン・ヒクソンがミス マープルだ。
名探偵ポアロ
アガサ・クリスティーの原作の探偵ものの代表作の一つが私立探偵だ。
ポアロのプロファイルはミス・マープルと対照的だ。ロンドン市内の高級コンドミニアム「ホワイトヘブン マンションズ」にオフィス兼住まいを構え、ミス・マープルと違い、アーサー・へスティング大尉という退役将校をパートナーに持ち、聡明なミス・レモンという秘書がいる。ポアロは名前をエルキュール(ヘラクレスの仏語読み)といいベルギー人で警官だった彼は第1次大戦中、ドイツ軍の侵攻により英国に亡命、ロンドンを本拠に名探偵の地位を築く。
誇り高きベルギー人の彼はピンと跳ね上がった口ひげをたくわえている。グルメで洋服は特別誂え。整理整頓を心掛け乱雑さは忌み嫌う。小柄で動物の飾りが付いたステッキを使い小股で歩く歩き方は独特で決して走らない。難事件に向き合い解決の糸口をつかむと「私の灰色の小さな脳細胞が活動を始めた!」が口癖。
アーサー・へースティングス大尉はポアロのパートナー。シャーロック・ホームズのワトソンのような存在で、彼の言葉からポアロが事件解決の糸口を見つけることもたびたび。ポアロはへースティングスに「あなたも灰色の脳細胞をもっと使いなさい!」と叱咤する。
へースティングスはカーマニア。高価なクラシックスポーツカーを持っている。私は彼のさりげないスポーツコートの着こなしが大好きだ。時代設定が1930年代以降だからカーマニアならずとも出てくる車はタクシーまで骨とう品だ!ドラマの中で彼の大切な愛車が犯人のために事故にあう!クラシックカーだけに修理は大丈夫かと心配する。
ポアロにもロンドン警視庁の警部が登場する。ジャップ警部だ。ポアロはベルギー時代警察署長までになったがジャップ警部とは一緒に捜査を協力しており、旧知の仲。ポアロに一目も二目も置く。
主役のポアロを演じているのはデビッド スーシェ。彼は原作を何度も読み返し、役作りをした。したがって登場するエルキュールはスーシェの役作りなのだ。この役作りとは別にクリスティーはポアロが嫌いだったという。原作の4作目ぐらいでポアロを若い人に変えたいと言い出し、出版社などの説得で継続したいきさつがある。
ポアロはシンメトリーな配置を好み、病的なまでに潔癖な彼は伴侶を持つことは考えなかった。朝食べるボイルドエッグは二個。エッグスタンドに入れた2つの卵の高さが同じでなければならなかった!(オリエンタル急行殺人事件編にも出てくる!)
料理にうるさい彼は英国料理を好まなかった。普通の英国人でたたき上げの刑事のジャップ警部を良く引き合いにだした。(ジャップ警部はフィッシュアンドチップスでOKなのだ!ポアロは自慢のベルギー料理の腕を振るうが警部はあまり反応しない!一方、海外生活の長いへースティングスはポアロの料理のこだわりを心得ている。
彼の難しい性格をミス・レモンはつかず離れず上手に切り回す。
ポアロは生涯独身を通した。
ポアロは吹替版だ。熊倉一雄の声がポアロの声でこれほど見事な個性の一致はない。ポアロのシリーズがすべて放映され最終版は事件を病床で解決してポアロは息を引き取り、番組は終了した。ポアロの最後を演じるスーシェに「ポアロ、まだまだ大丈夫だよ」と言ったそうだ。最終版の吹替を完成した熊倉一雄もほどなく亡くなった。
デビット・スーシェは健在で他の作品(例えばPRESS)に出演しているがポアロを再制作することは不可能だ。熊倉一雄がいない!
デービッド・スーシェと熊倉一雄はことポアロに関する限り一心同体なのだ。