アカウントプランニングの生みの親
スティーブン・キングさんのリーダーシップでアカウントプランニング機能ができたのはJWTロンドンで1968年のことである。
その創立の背景は興味深いものがある。それまでアカウントマネジメントの役割はその役職名であるアカウントレプリゼンタティブ(Account Representative)に示されるように、クライアントに対してはアカウントチーム(担当代理店のチーム)を代表し折衝し、代理店内にあってはクライアントの立場を代弁し、チームを仕切っていくという重要な役割を担っていた。
レップ(アカウントレプリゼンタティブの略称)は有能であればあるほどクライアントのブランドマネージメントに精通し、クライアントの意向をクリエイティブに指示する傾向が強くなっていた。
また、それまではAIDMAの考え方が伝統的に主流だった。クライアントが消費者に伝えたいことを反復し、伝えれば消費者はそのメッセージを認知し、興味を持ち、欲しいと思い、記憶し購買するというものであった。つまり広告はメッセージということだ。クライアントの意向とその代弁者、レップとこのAIDMAの法則を基にした広告からは消費者インサイトによる企画の発想は無く、クリエイティブはクライアントのブリーフに基づかざるを得ない状態だった。
広告は期待する反応を得るための刺激
スティーブン・キングさんとクリエイティブディレクターのジェロミー・ブルモアさんを中心として、JWTロンドンでは広告はメッセージという考えは間違いであるということを主張し、消費者はメッセージのパッシブな受け手でなく、自分の意見を持ちメッセージを評価し反応することを主張した。つまり広告はメッセージでなく消費者から期待する反応を得る刺激であると考えたのだ。
JWTロンドンでは消費者の購買意識、行動に基づく広告プランニングを進めるため従来のマーケティングリサーチ機能を解消し、アカウントプランニング機能を立ち上げた。消費者の定量的調査のみならず、質的、定性調査から得られる情報を重視し得られる消費者のインサイトにもとずく広告のプランニングにより、広告により消費者の心に起こしたい反応をクリエイティブにブリーフできるようになった。クリエイティブはその期待される反応を最も効果的に引き起こす広告アイデア、つまり刺激を考えればいい。クリエイティブはアイデア(刺激としての広告)の開発の自由を得たのだ!
アカウントプランナーはブランドの守護神
アカウントプランナーは消費者の購買意識、行動から担当ブランドの課題を絞り込み、その課題に答えるために広告は何をすべきかクリエイティブと話し合い、クリエイティブの方向を検討し、企画をすすめる。アカウントプランナーは消費者の代弁者であり、ブランドの守護神だ。
その成果は一見に如かず。70年代、80年代のJWTロンドンの素晴らしいクリエイティブ作品に繋がった。POLO(ポロミント/菓子)、KITKAT(キットカット/菓子)、GUINNESS(ギネス/ビール)、Persil Automatic(パーシル オートマチック/全自動洗濯機用洗剤)、NATWEST(ナショナルウエストミンスターバンク/銀行)、Kellogg’s(ケロッグ/シリアル)、The Guardian(ガーディアン/新聞)などのすばらしいキャンペーンが生まれた。