アカウントプランニング(ストラテジックプランニング)との出会い

JWTインターナショナルセミナー
JWTインターナショナルセミナー1974 集合写真

新たな出発

JWTに入社して8年目の1974年は私が新しい方向を目指す出発点となった。

1974年に初めてアカウントプランニングの考え方と手法に触れることになった。
オフィスマネージャーのサットンさんからオランダ、アムステルダム近郊のノールトウエイクで行われるJWTインターナショナルセミナーに参加するよう言われた。

それまで私達東京オフィスではJWTニューヨークの広告プランニングの考え方の影響を受けておりJWTロンドンで開発されたアカウントプランニングについては何の知識もなかった。アムステルダムでのインターナショナルセミナーは全く新しい経験だった。

アカウントプランニングの創設者であるスティーブン・キングさんとクリエイティブのリーダーのジェロミー・ブルモアさんを中心に新しいアカウントプランニングの考え方が確立され、アカウントプランニングが初めてJWTロンドンに設立されたのは1968年のことだった。プランニングのリーダーとクリエイティブのリーダーが出発点から新しい考え方を共有し、開発されていったことは注目すべきだ。

アカウントプランニングの考え方と手法はプランニングツールキットとして標準化され、1970年初めまでにアカウントプランニングがJWTロンドンの要として機能していた。(消費者のバイイングシステムは1980年に入ってからキングさんと彼のチームにより追加され、ツールキットは更に充実した。)

JWTインターナショナルセミナー

そのような背景の中で1974年のノードウイークでのインターナショナルセミナーが行われた。
セミナー参加者は 30名。ロンドンはじめ、アムステルダム、パリ、フランクフルト、ミラノ、ローマ、バルセロナ、リスボン、コペンハーゲン、ストックホルム、ニューヨーク、シカゴとまさにインターナショナル!アジアからは東京からの私だけだった。

参加者はアカウントマネージメント、アカウントプランナー(ロンドンオフィスのみ)、メディア、クリエイティブ、リサーチと多士済々、期待される人材が参集した。

スピーチするジョンストンさん

21日にJWTアムステルダムオフィスに集合した。ニューヨークから訪欧中の本社CEOのドン・ジョンストンさん(写真)が激励によられた。
ジョンストンさんは参加者と講師を前にスピーチし、株主総会で株主はこの広告を見てJWTのグローバルエージェンシーの力に得心したと言われた。私達東京のウールマークの「Warmth(父と子編)」というTVCMだった。彼は私をみて微笑んでうなずいた。「がんばれ」と言われたようだった。

21日から26日までのセミナーはワークショップの形式でおこなわれた。前半は講義が中心。後半はグループに分かれて、マーケティングプロジェクトの課題に取り組みチームの提案をプレゼンテーションした。

このセミナーの内容を基に、1980年代に入って「ジェームス・ウエブ・ヤングセミナー」としてアジア太平洋地域に伝播された。

プランニングサイクル、ブランドの個性、広告の役割、刺激と反応、広告のアイデア等勉強することがいっぱい!夢中で参加者と議論し、新しいプランニング手法の理解に励んだ。

“What is a Brand?”

セミナーで初めて”What is a brand?”「ブランドとは何か?」というフイルムを観た。ロンドンオフィスのスティーブン・キングさんとジェロミー・ブルモアさんによるブランドの価値の重要性についての解説で1971年に制作されたものだった。

19世紀から1960年代までのメーカーと卸売り業と小売業と消費者の関係を紐解いて、1970年代に入り、小売業の力が増大しプライベートブランドがメーカーのブランドの脅威となってきた状況でメーカーが小売業の圧力に屈しないための解決策としての広告の役割とブランドの価値についての話だった。

ブランドは機能的な価値と非機能的な価値とで成り立ち長期にわたり作り上げられるもので継続したブランドアピールが大切であることを理解した。小売り業の値引きの圧力に屈せずマーケティング費用を確保し、広告を続け、ブランドの価値を高めることが企業の成功につながるということだった。ケースを引用された話は大変勉強になった。

クラフトマヨネーズの課題

セミナーで各チームに与えられたマーケティング課題は「スペインでアメリカのクラフトマヨネーズを成功させるには?」というものだった。当時、日本でもクラフトはベルビータというプロセスチーズを導入しようとしていたが製品に優位性がなくしかもクラフトは日本ではアメリカのブランドとしてのヘリテージもなかったので苦戦していた。まさに日本の消費者が評価できる機能的価値と非機能価値が必要だった。

グループワークショプクラフトマヨネーズもスペインで難題を抱えていた。私のチームでは私が市場分析を担当することになった。(他のチームメンバーは面倒なことはやりたくなかったのだろう。)分析結果から手作りのマヨネーズが各家庭で作られていることがわかった。とくに保守的な北部ではその傾向が強かった。ホームメイドのマヨネーズに勝る機能的価値はなにか?非機能的な価値はなにか?アメリカの製品が使われる余地は?というのが要点であった。

今ならライフステージのセグメンテーションや都市部の働く主婦層をターゲットにおくようなことを考えて、ターゲットの消費者にアピールするホームメイドのマヨネーズから差別化する機能価値と非機能価値を基に考えられる、ワクワクするアイデアがあったのだろうが、そこまで考える力は未だなかった。JWTがどのような解決策を提案したのか?またその後クラフトはブランドとしてどうなったのか?今どこにいるのか?大変興味がある。

最後のクラフトマヨネーズのプロジェクトは一睡もせず最終日の発表となった。

打ち上げはアムステルダムに繰り出した。講師と生徒がワインを酌み交わしセミナーの成果を祝った。楽しい思い出である。セミナーでできたたくさんの友人が私のJWTのネットワークとなっていった。

日本での展開

1974年のこのセミナーは私がロンドンオフィスのプランニング手法を学んだ第一歩であったが、ロンドンオフィス以外ではこのプランニング手法を標準化するまでにはなっていなかった。日本では私が1980年にロンドンオフィスに派遣され、アカウントプランニングを学び帰国後日本ではじめてのアカウントプランニング機能を戦略プランニング局として立ち上げた。

アカウントプランナー(ストラテジックプランナー)を養成し、サポート機能を開発してツールキットを使い込み、アジア太平洋地区では東京がいち早くアカウントプランニングを戦略立案の要として機能させた。

アメリカではアカウントプランニング(ストラテジックプランニング)の考え方が採用されはじめたのは1980年代。1990年代に入ってようやく主な広告代理店に標準化された。


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