1980年代のJWTロンドン
夏が来ると妻と小学校に入ったばかりの娘と、35キロもある大きな雑種の和犬を連れてロンドンに渡った1980年代のことを思い出します。
当時、JWTロンドンは素晴らしくクリエイティブな広告を手がける広告会社としてロンドン・エージェンシーの頂点にありました。
その卓越したクリエイティビティは優れたプランニング理念とその手法に裏打ちされていました。
その勉強をして東京に持って帰れという任務を負っていたわけです。
ロンドン・オフィスはバッキンガム宮殿、ハイドパーク、ボンド・ストリート等から近い、バークレースクエア40番地にありました。
JWTロンドンはアカウント・プランニングのパイオニアで、この分野でのリーダーでもありました。
「消費者の心は白紙ではない」(スティーブン・キング)
アカウントプランニングは1968年に発足しましたが、私が赴任した時、創設者のスティーブン・キング氏は健在で、若く、有能なプランナー達を指導しておられました。
彼から得た「消費者の心は白紙ではない」という言葉がアカウント・プランニングの原点だと思います。
アカウント・マネージメントのトップが若い女性のプランナーに真剣に意見を請う姿。
プランナーとコピーライターがパブでビターを呑みながら議論している光景。
プランナーを支援する充実したリサーチャーからの提案。
ロンドンの各エージェンシーのアカウント・プランナーが定期的に集うアカウント・プランニング・グループ(APG)の集いは美術館を借り切って行ったり、優雅で気品の溢れるものでしたが、内に秘めたプロ意識は皆、凄いものがありました。
彼らは仕事を楽しむと同時に人生を楽しむ達人でもありました。
見るもの、聞く事すべてが新鮮で、2年がアッという間に過ぎて行きました。
消費者のインサイトが基点
東京に戻って30年以上が過ぎ、ブランディングの過程が時代と共に複雑になるにつれ、アカウント・プランニングの仕事も進化しました。
でも、消費者のインサイトを基点として戦略を考える基本は変わっていません。
その後、JWTロンドンは住み慣れたバークレースクエアを離れ、ナイツ・ブリッジにオフィスを移しました。
しかし、アカウントプランニングとの出会いの場としてのJWTロンドンは私の心にあるバ―クレースクエア40番地に脈々と息づいています。
さわやかな夏の日差しに映える、広場の大きなコンカー(西洋栃の木)の木立のさざめきと共に。